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STORY 04

-災害救護に求められるもの-
看護師長 荒木尚美

東日本大震災から約一か月。

医師、放射線技師の主事、薬剤師、看護師は私を含めて3人のチームで被災地に降り立った。 テレビの映像からは伝わってこなかった空気。強い潮の臭いが私の鼻をかすめる。陸に乗り上げている船。まともに歩くことさえできない道路。報道で繰り返し見た被災地の様子。実際にそれを目の前にして、言葉ではとても言い表すことはできないと感じた。 もうあれから一か月が経とうとしているのに、ここでは時間が止まっているかのようだった。

別の救護班の医師と一緒に、避難所となっている小学校で巡回診療を行った。 1階から3階までのすべての部屋に被災された方の荷物が広がっていて、ここでの生活が窺える。
「一体なにが起こったのか本当にわからない」 被災者の方々は、知らないのだ。どういうことが起きて、どんな津波がきたのか。私たちは報道を通じて一部始終わかっているが、ライフラインが途絶えたことで知るすべもなかった。その現実が辛くて、申し訳ない気持ちになった。でも、私たちは関わっていかなくてはいけない。そういう事実も受け止めて、被災者の方々にしっかり寄り添っていく。一人ひとりが心から大切な存在であるという事を自分の「わざ」を通して伝えていくために。


被災者の方々は時期が来れば私たち救護班がここを去り帰っていくことを理解されており、またそれを悟っていることを私たちもわかっていた。限られた期間で、私たちに何ができるのか。なにかひとつでも困っていることを解決したいという気持ちだけで活動した。 被災地で赤十字の救急法を実践した。機材もなく、資材も限定された場でできること。 ハンカチ一枚をガーゼの代わりに、三角巾一枚を包帯の代わりに・・・。 そして何より大切なのは相手に寄り添う気持ち・・・「あなたと共にいる」ということ。 そのような「わざ」と「こころ」を継承していくこと。それが自分の使命だと感じている。

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